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農業に関するTPP参加の経済効果のシミュレーション
：GTAPモデルによる推計
高増 明・関西大学社会学部
論文をダウンロードする方は、ここ（PDF版）をクリックしてください。 （また日本と中国について、TPP参加の効果をシミュレーションした論文については、ここ(PDF版)をクリックしてください。）
日本がTPPへ参加したときに、どのような影響があるのかをGTAPモデルを使ってシミュレーションした。シミュレーションから得られた結果は、つぎのとおりである。
| (1) |
日本だけがTPPに参加した場合、日本はGDPを0.29％増加させる。しかし、日本のコメ生産額は−64.5％、小麦の生産額は−62.3％、肉類の生産額は−23.9％となり、日本の農業は壊滅的な打撃をうける。 |
| (2) |
日本、韓国、中国、台湾、ASEAN諸国がすべてTPPに参加した場合、東アジアの先進工業地域、中国はTPPに参加することによって、GDPを上昇させることができるが、その上昇率はそれほど大きくはなく、日本は0.43％、韓国は0.83％、中国は0.22％、台湾は0.42％である。一方、日本、韓国、台湾のコメ生産は壊滅的な打撃を受け、そのほかの農産業についても日本は大きな生産額の減少を余儀なくされることが予想される。 |
| (3) |
アメリカは、日本などの参加によって、農業は生産を増やすが、GDPは上昇しない。 |
| (4) |
日本のコメの生産を減らさないためには、400％程度という非常に高い補助金を支給する必要がある。 |
このように、TPPへの日本の参加は、必ずしも大きなメリットを日本とアメリカなどのTPP加盟国にもたらすものではなく、その一方で、日本の農業に致命的なダメージをもたらすことが予想される。したがって、農業をどのように保護するのかを決定しないかぎり、参加を行うことは困難であろう。この結果からも、政府の積極的な姿勢やマスメディアによる報道が、客観的な状況を冷静に検討しない、非常にバイアスのかかったものであることが理解できるだろう。重要な国際貿易政策を政治・ナショナリズムの「道具」にすることは、絶対に避けるべきである。日本政府も、中国や韓国に倣って、各産業の利害を調整しながら個別のFTAを締結していく方向が望ましいだろう。
シミュレーションの結果はつぎのとおりである。
日本だけがTPPに参加した場合
表 GDPの増加（単位：％）
日本 |
韓国 |
中国 |
台湾 |
ASEAN
TPP |
ASEAN
NTPP |
Oceania
TPP |
+0.29 |
-0.02 |
-0.02 |
-0.02 |
+0.30 |
-0.02 |
+0.03 |
LA
TPP |
LA
NTPP |
US |
カナダ
メキシコ |
EU |
その他 |
|
+0.01 |
-0.01 |
0.00 |
+0.01 |
-0.01 |
-0.01 |
|
表 各セクターの生産額の変化（単位：％）
|
Japan |
ASEAN
TPP |
Oceania |
LA
TPP |
US |
コメ |
-64.50 |
11.48 |
190.86 |
-0.21 |
125.92 |
小麦 |
-62.30 |
6.57 |
-4.57 |
-5.02 |
2.41 |
穀物 |
-11.24 |
-5.95 |
2.44 |
-0.09 |
1.08 |
野菜・果物 |
0.98 |
-2.58 |
-0.02 |
0.27 |
-0.75 |
肉類 |
-23.90 |
-1.35 |
9.20 |
7.17 |
4.12 |
漁業 |
0.22 |
0.05 |
0.72 |
0.25 |
0.12 |
資源 |
-0.10 |
-1.07 |
-1.15 |
-0.19 |
-0.16 |
加工食品 |
0.57 |
2.22 |
5.93 |
0.52 |
0.41 |
繊維 |
3.19 |
41.22 |
-1.46 |
-1.58 |
-1.09 |
軽工業 |
3.11 |
-0.30 |
-3.91 |
-1.06 |
-0.54 |
重工業 |
0.39 |
-0.91 |
-2.90 |
-0.63 |
-0.28 |
日本・中国・韓国・台湾・すべてのASEAN諸国がTPPに参加した場合
表 GDPの増加 （単位：％）
| 日本 |
韓国 |
中国 |
台湾 |
ASEAN
TPP |
ASEAN
NTPP |
Oceania |
+0.43 |
+0.83 |
+0.22 |
+0.42 |
+0.69 |
+0.29 |
+0.07 |
LA
TPP |
LA
NTPP |
US |
カナダ
メキシコ |
EU25 |
その他 |
|
+0.05 |
-0.05 |
+0.01 |
-0.01 |
-0.04 |
-0.04 |
|
表 各セクターの生産量の変化（単位：％）
| |
Japan |
Korea |
China |
Taiwan |
ASEAN
TPP |
ASEAN
NTPP |
Oceania |
LA
TPP |
US |
Canada
Mexico |
コメ |
-83.71 |
-58.66 |
10.85 |
-85.56 |
7.86 |
6.09 |
46.23 |
-0.63 |
1.52 |
39.23 |
小麦 |
-62.80 |
32.67 |
-1.60 |
15.41 |
5.91 |
-10.96 |
-8.43 |
-4.95 |
2.39 |
4.07 |
穀物 |
-13.48 |
15.01 |
3.62 |
6.53 |
-11.25 |
-1.61 |
0.21 |
-0.34 |
-0.25 |
1.15 |
野菜・果物 |
0.40 |
-15.65 |
0.03 |
-5.89 |
11.71 |
-0.88 |
-0.54 |
0.06 |
0.42 |
-0.89 |
肉類 |
-24.61 |
5.95 |
-2.13 |
-3.06 |
-2.62 |
-3.06 |
16.64 |
7.86 |
-0.75 |
4.59 |
漁業 |
0.14 |
-0.06 |
0.58 |
-0.51 |
0.31 |
0.34 |
1.01 |
0.43 |
0.05 |
0.30 |
資源 |
-1.59 |
-6.24 |
-0.76 |
-3.26 |
-1.46 |
-1.75 |
-1.09 |
0.48 |
0.51 |
0.08 |
加工食品 |
0.45 |
3.67 |
0.55 |
-0.33 |
0.87 |
1.45 |
6.81 |
0.62 |
-0.24 |
0.50 |
繊維 |
0.85 |
19.57 |
3.94 |
33.35 |
46.09 |
11.28 |
-11.5 |
-7.28 |
-5.54 |
-6.54 |
軽工業 |
3.16 |
1.60 |
1.69 |
2.13 |
-2.19 |
-4.54 |
-4.60 |
-2.06 |
0.19 |
-0.86 |
重工業 |
0.70 |
-1.16 |
-1.33 |
-0.21 |
-0.08 |
-0.82 |
-2.76 |
-0.10 |
0.64 |
0.50 |
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