高増 明・竹治康公編
   『経済学者に騙されないための経済学入門』
      ナカニシヤ出版、2004年4月、定価2,800円

そうだったのか! と誰もが納得してしまう、一番わかりやすく、もっとも刺激的で挑発的な経済学入門書がついに出版されました。

 
経済について論理的に考えるためには、絶対に経済学を学ぶ必要があります。・・・・・しかし、それと同時に、ひとつの経済学だけを信じて、それを経済政策などに強引に適用しようとすることも間違っています。経済学の「限界」を意識しながら、現実の経済との関係を考えて経済学を学ぶこと、それが・・・・・この本で、読者のみなさんに学んでほしいことなのです。(はじめにより)

 

 この本の目的

 最近では、竹中平蔵氏のように経済学者が大臣になって日本の経済政策を自ら実行したり、政府の委員会などで経済政策の立案に大きな影響を及ぼしたりするケースが増えてきました。またそのときには、経済学の理論を直接、現実の経済に適用するという姿勢が強く打ちだされています。しかし、経済学者によって作られた経済政策が現実に効果をあげているかというと、必ずしも、そうは思えません。逆に、経済は、悪い方向に向かっているようにみえます。これは単に、そのような気がするだけなのでしょうか。それとも経済学者がつくった政策が間違っているのでしょうか。間違っているとすれば、それは、その経済学者の個人的な責任なのでしょうか。それとも、経済政策をつくる基礎となる経済学そのものに問題があるのでしょうか。

 この本は、このような疑問に答えることを目的にしています。そのために、まず経済学を可能なかぎりわかりやすく解説していきます。また、そのなかで、現実の経済の問題を解決するときに経済学のどこが問題なのかを明らかにしていきます。さらに、この本では、経済学者の見解の相違やその背景にある経済理論の対立をできるだけ簡潔に解説します。そうすることによって、読者は、経済学の有効性と限界、経済学内部での見解の相違とその原因、について正確に理解することができます。

 

 


 
経済学者に騙されないための経済学入門

 この本のタイトルは著者のオリジナルなアイデアではありません。イギリスのケンブリッジ大学教授だったジョーン・ロビンソン(Joan Robinson、1903-1982)という女性の経済学者は、『マルクス、マーシャル、ケインズ』(1955)というエッセイのなかで、つぎのように述べています。

  The purpose of studying economics is not to acquire a set of ready-made answers to economic
  questions, but to learn how to avoid being deceived by economists.
  経済学を学ぶ目的は、経済の問題に対して一連の出来合いの答えを得るためではなく、どうしたら
  経済学者に騙されないかを学ぶことである。

 ジョーン・ロビンソンは、不完全競争論、経済成長論など経済学の様々な分野に大きな業績を残した経済学者ですが、ロビンソンは、それと同時に、自身が研究している経済学の「限界」を常に認識していた経済学者でした。このコメントもマルクスやマーシャル、ケインズの経済学が、それぞれ有効性をもっていることを認めながらも、その考え方に決定的な対立点や相違が存在すること、それぞれの経済学が限界をもっていることを認識してのコメントなのです。

 ジョーン・ロビンソンがこのような主張をしてから、50年以上が経過しようとしています。しかし、経済学者のなかには、依然として、自分の研究している経済学を絶対視して、現実の経済に乱暴に適用しようとする人が数多くいます。この本は、その意味で、ジョーン・ロビンソンの考えていたことを現代の経済学と経済に適用することをめざしたものです。

 

 

 この本の構成
 
  はじめに:経済学者に騙されないために
     
  第1章 経済学とはどんな学問か
  1-1  経済学とは何か
  1-2 経済学の「良いところ」と「悪いところ」
  1-3 経済学の分析トゥール(ミクロ経済学とマクロ経済学)
  1-4  経済学は経済問題をどのように解決するのか
  1-5 経済学の歴史
     
  第2章 経済システムと組織
  2-1 経済成長と経済システム
  2-2  経済の組織
  2-3  モノの生産と流れ
  2-4  カネの流れ
   
  第3章  ミクロ経済学
  3-1  ミクロ経済学とは何か
  3-2  消費者の行動
  3-3  企業の行動
  3-4  価格と生産量の決定:市場
  3-5  市場メカニズムは効率的か
  3-6  ミクロ経済学をどのように現実の経済に適用するか
     
  第4章 マクロ経済学
  4-1  マクロ経済学とは何か
  4-2  GNPとは何か
  4-3  なぜ財政政策を行なうのか(45度線モデル)
  4-4  財政政策と金融政策(IS-LMモデル)
  4-5  開放経済のマクロ経済学
     
  第5章 経済政策の意味 
  5-1  なぜ経済政策を行なうのか
  5-2  経済政策は有効か
  5-3  構造改革とは何か?(不況の経済学)
  5-4  不良債権問題の経済学
  5-5  ITは経済を救わない!(ニューエコノミー論のウソ)
  5-6  財政赤字は本当に悪いことか?
     
  第6章 日本経済と世界経済の現状と未来
  6-1  はじめに
  6-2  戦後日本の経済成長
  6-3  アジア経済と日本
  6-4 アメリカ経済と日本
  6-5 グローバリゼーション:アメリカは世界を支配するのか